――けして見つけ出してはならない

 それは災いを呼ぶ悪魔

 自然を破壊する魔物

 我らは守る者

 汝これを探さずにそっとしておくべき

 さもないと守る者の刃が汝を襲う

 守る者を挫いても悪魔が世界を滅ぼすであろう――

 

「ふん。悪魔めが!世界を滅ぼすとはこいつのことだろうよ!なんで俺がこんなやつを育てなきゃならんのだ?娘に手を出されたらかなわんぞ?今の内に殺すわけにはいかないのか?」

「この子の名前は『モズ』です。この子をどうかよろしく。ってどういう神経をしてるのかねこいつの母親は。あなた!こんな子今の内に殺しておかないと世界を滅ぼす悪魔になるわよ!」

 怒ったように男が言った後にその奥さんが半分恐れたように、手の中に包まる赤ちゃんを見ながら言う。どうやらその赤ちゃんがモズという名前らしい。

 「それはできんだろう。村長も国王も俺たちの家で育てろとの命令だ。こんなクズみたいなやつを…」

 これがモズがこの家に拾われた簡単な経緯だった。幼少期のモズは、この家で奴隷のように扱われていた。

 いや、この家に関わらず村人全員から奴隷のように扱われていた。

 その理由は――

 

「オレの親が人類を裏切ったんだよな…」

 モズが同じ家で育つカナリアから自分の両親のことを聞いたのは、物心ついた頃だった。カナリアは実の両親から本当のことを聞かされていた。

 それはモズも同じように聞かされていたこと。モズの両親は人類を裏切り、魔物と手を組んで魔物に殺されたということだ。モズはそんな両親を恥じていた。自分は絶対にそんなことにはならない。今も魔物によって様々な村や町が大変な目に遭っている。その村を助けるために、そして魔物を掃討するために警備隊になるのだと子供の頃から誓っていた。

 しかし周りのモズを見る目は『裏切り者の息子』だけであり、誰もモズを認めようとはしないのである。

「ねぇモズ?無理して警備隊にならなくてもいいんだよ?モズは勉強もできるんだし学者になる道もあるんだよ?」

 心配したカナリアの口癖だ。

 モズを唯一普通の人間として接してくれるのがカナリアである。

「オレと一緒にいるとまた怒られるぞ」

 モズが注意するように、カナリアは両親から、モズと接しないように毎日注意を受けているのだ。

「私の自由でしょ?モズは本当に警備隊になりたいの?」

「あぁ。オレの使命だ。オレは両親のようにはならない。両親が裏切ったせいでオレはこんな仕打ちを受けているんだ。明日やっと訓練学校に入学できるんだ。オレは絶対に警備隊になって魔物を全滅させてみせる!」

「モズ…」

 何か言いたそうなカナリアをモズは制止した。

「カナリアは立派な学者になれよな!」

 にこりとモズが笑う。もうこれ以上は何も言えないような雰囲気だ。

 訓練学校は全寮制だ。もしもモズと違う学校に行くならば卒業するまでは会えないことになる。

 カナリアにはそんなことは絶対にできなかった。

 モズと離れることなど考えられないのである。

 だからきっと、明日モズと同じ学校に行くなんて言えば、モズも両親も驚くだろう。反対もされるだろう。そんなことは百も承知だ。それでもカナリアはモズと共に道を歩みたいと思っているのだ。

 

 カナリアの気持ちは決まっていた。

 風がそっと吹いてカナリアの髪の毛を優しく撫でていった。